2018年02月08日

月刊ベルダ1月号(2017年12月発売)より転載

「米中新時代」と
朝鮮半島の動向


●米中は似た者同士の覇権国家 
 今年(2018年)の世界情勢は、トランプと習近平が大接近した米中の二大覇権国家と、核・ミサイルでその米中にケンカを売る極東の小国北朝鮮の二つの軸を中心に展開されてゆくだろう。
米中新時代≠ニいう世界潮流のなか、唯一、米中が対立関係にあるのが朝鮮半島で、米中とも、それぞれの思惑のちがいから、北朝鮮の核・ミサイル開発にブレーキーをかけることができなかった。
 中国が金正恩体制を温存させてきたのは、北朝鮮が緩衝国として、中国の国益に合致していたからで、これまで、食料や物資の支援をおこない、国連安保理で北朝鮮の肩をもってきた。
 だが、核保有国となった金正恩北朝鮮は、いまや、中国の同盟国でも友好国ですらなくなりつつある。
 北朝鮮の核ミサイル問題の焦点が、今年はじめに完成するといわれる核弾頭と大陸間弾道ミサイル(ICBM)にあるのはいうまでもない。
 もっとも、北朝鮮の核は防衛用(相互確証破壊)であって、先制攻撃に使用されることは100%ありえない。
 したがって、アメリカには対朝戦争に踏み切る理由もメリットもない。
 この現状の固定化こそが米中の望むところで、北朝鮮が防衛的にしか使用できない核戦力を誇示したところで、米中には痛くも痒くもない。
 そのかんに中国は一帯一路戦略をおしすすめ、アメリカは武器・軍需物資を世界中に売りまくるだろう。
 12日間のアジア歴訪の旅を終えたトランプ大統領がアジアに残していったのは、現状維持という米中にとってまことに都合のよいものだったのである。
 トランプは、日・韓に大量の武器を売りつけ、中国とは、貿易不均衡の是正と称して、製造業やエネルギー分野への投資から、航空機、半導体、食品分野にいたる米国製品28兆円(2500億ドル)の大量購入の約束をとりつけた。
 米中にとって、現状の固定化は、いかに北朝鮮危機が迫ろうとも、かくも戦略的メリットが高いものだったのである。

 ●北朝鮮の核化≠ノ無力だった米中
 北朝鮮が核やミサイルをもちたがる理由は二つある。
 @対米用「核の抑止力(確証相互破壊)」
 A南北統一のための軍事的優越性の確保
 北朝鮮は、金正恩独裁体制の維持と南北統一の切り札に核をもちいようというのである。
 北朝鮮が、核弾頭とICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発を放棄しないのは、核・ミサイル保有国にならなければ、米中と対等の立場に立つことができないと思っているからである。
 北朝鮮には、核の放棄どころか、米本土に到達するICBMを完成させるまで話し合いのテーブルにつく気すらない。
 たとえ、米朝が水面下の外交的な交渉で、ICBM開発を一時凍結したとしても、そのとき北は世界で九番目の核保有国となっている。
 核をめぐる米朝のかけひきは、1994年の「米朝枠組み合意」以来、アメリカは北朝鮮にやられっぱなしなのである。
 一方、中国は、北朝鮮にたいして、三つのアドバンスをもっている。
 1:中朝軍事同盟の破棄
 2:原油輸出の完全停止
 3:中朝国境線の完全封鎖
 中国は、国連制裁を参加せずとも、独自の政策で、北朝鮮を屈服させることができるのである。
 その中国にして、北朝鮮の非核化は手に負えなかった。
 北朝鮮は、北を潰せない中国の逆手にとって、米中を手篭めにしたのである。
 北朝鮮が核保有国になれば、イランなどへの核の商人≠ニ化す可能性を否定できず、そうなれば、中東の核化が一挙にすすむことになる。
 米中は北朝鮮の核保有にまったく無力だったのである。
 北朝鮮の核の直接的な影響をうけるのが韓国と日本だが、韓国以上に核に無力なのが専守防衛の日本である。
 敵基地攻撃能力をもてないので、被爆しても、米軍のミサイルで敵の基地を攻撃してもらう以外方法がないのだ。
 交戦権を否定する九条を温存して三項をくわえ、自衛隊を憲法上、認知したところで、九条一項二項が残っているかぎり、防衛的先制攻撃が不可能になる。
 憲法を改正して、国家防衛力が、解釈改憲の現状よりも低下するのである。
 北朝鮮が核保有国となった現在、日本のアメリカの核の傘への依存と対米従属がさらに深まって、戦後レジームからの脱却はますますむずかしくなる。
 中国メディア(環球網)は、1015年、日本がミサイル搭載用の核弾頭を短期間で開発する能力をもっているとする署名原稿(中国安全研究所副所長・の楊承軍教授)を掲載して、警戒を呼びかけた。
 日本の核保有には、中国だけではなく、アメリカも反対で、日本が国際世論の反対をおしきって核をもてば、世界と摩擦がひきおこされて、経済的・外交的に大きなダメージをこうむることになる。
 核をもてない日本は、アメリカの核の傘の下にはいらざるをえず、対米従属がさらに深まることになる。

 ●中国共産党と米国の軍産複合体
 来年以降、世界は、米中の大接近によって、二極支配の構造を呈するだろう。
 もともと、米中は似た者同士の国家で、いくつか共通点がある。
 @ともに革命からうまれたイデオロギー国家である
 A国家の上位に共産党組織や軍産共同体という軍事機構をもつ
 Bグローバリズムに立った覇権国家で、両国で二大強国を形成している
 イデオロギー的に相容れない米中両国が手をむすぶのは一種の棲み分け≠ナ、それを端的にあらわしたのが習近平の「太平洋には中国と米国を受け入れる十分な空間がある」という発言(トランプとの共同記者発表)だった。
 中国が革命国家であることはだれもが知っている。
 ところが、アメリカが革命国家であるという認識は、案外、乏しい。
 アメリカの独立戦争は、世界で最初の市民革命でもあって、独立宣言・合衆国憲法をとおして、自由・平等そして民主主義を謳いあげる市民社会を出現させた。
 アメリカと中国は、ともに革命国家で、そこに米中が一脈つうじあう理由があるだろう。
 1996年の台湾海峡ミサイル危機は、台湾総統選挙で李登輝優勢に焦燥を深めた中国軍が台湾海峡にミサイルを撃ち込んで恫喝したもので、これにたいして米海軍は、台湾海峡に太平洋艦隊を送り込んで牽制した。
 このとき、米中のあいだで、投票日の三日前にミサイル発射停止、その直後に米艦隊を海峡から撤退というシナリオができていたとされる。
 ニクソン大統領の訪中準備のため一九七一年におこなわれたキッシンジャー特別補佐官(当時)と中国の周恩来首相(同)の極秘会談では「日本の軍事大国化を防ぐには日米同盟でコントロールすべき」という瓶のふた論≠展開している。
 人工国家である米中両国は、国家の上部構造にイデオロギーにもとづく軍事機構をそなえている。
 中国の共産党、アメリカの軍産共同体がそれである。
 米中が超大国となったのは国家概念に海外侵略≠ェとりこまれているからで、中国の共産党もアメリカの軍産複合体も、世界にむかって拡張してゆく装置といってよい。
 強権国家として、対外的に拡張してゆくための国家戦略を練るのが中国共産党で、第19回中国共産党大会では、習近平思想の党規約への明記が決議されて習近平の独裁者としての地位も確定した。
 アメリカを追いこして、世界一の大国をめざす習近平の思想が、毛沢東思想やケ小平理論と並んだわけで、習近平の「一帯一路」戦略が国家戦略となったのである。
 一方、アメリカの国家戦略は、軍事力による世界制覇で、それが軍産複合体(MIC)という国家臨戦態勢である。
 トランプが軍事関連製品のセールス外交をくり広げたのは、軍産複合体のアメリカにとって、軍需物資の輸出が経済の生命線だからで、アメリカは戦争から国益をえる国家なのである。
 ホワイトハウス(大統領行政府)とCIA(中央情報局)、ペンタゴン(国防総省)の下に3万5千社にものぼる傘下企業群、金融機関、大学や研究室、政府機関やマスコミ、350万人以上の将兵を抱える軍部、議会までがつらなるのが軍産複合体制という国家臨戦態勢である。
 これは中国も同じで、中国という国家の上部概念に中国共産党と中国共産党が組織する人民解放軍が存在する。
 アメリカと中国は、国家の上に、軍産複合体(MIC)や中国共産党(人民解放軍)という軍事ハードウエアを背負った特殊な国家なのである。
 米中とも世界戦略(グローバリズム)を必要とするのは、国家を統一、発展させるには、対外侵略に依存せざるをえないからで、それが、中国でいえば、一帯一路である。

 ●「一帯一路」と日米豪印戦略対話
 一帯一路は中国西部から中央アジア、欧州を結ぶ「シルクロード経済帯」(一帯)と中国沿岸部・東南アジア・インド・アフリカ・中東・欧州とつらなる「21世紀海上シルクロード」(一路)からなる。
 経済圏に含まれる国は62カ国、その総人口は約45億人で世界の約6割に相当する。
 海上シルクロードと呼ばれるのが「真珠の首飾り」である。
 マラッカ海峡航路のほか、パキスタンのグワダール港、バングラディシュ(チッタゴン港)、ミャンマー(シットウェ港)スリランカ(ハンバントタ港)など港湾や空港の整備に力が注がれたが、ハンバントタ港開発では、中国が高利で資金提供をおこない、返済が不能になると租借地として取り上げるという悪質な手法がとられた。
 これに対抗するのが、安倍首相が提唱した日米豪印戦略対話である。
 四カ国で構成される「アジアの民主主義の孤」で、習近平の「一帯一路」に対抗する狙いがある。
 影響をうけるのがASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国で、日米豪印戦略対話が軌道にのれば、中国の影響から脱して、非同盟中立という自主的な外交路線をとることができる。
 中国の東方進出にはもともと限界がある。
 台湾を武力制覇するためには米艦隊を破らねばならず、日本をこえて太平洋に進出するにも、原油の通り道であるインド洋や南シナ海で制海権を確保するにも日米同盟をこえる海・空軍力を持たねばならない。
 一方、莫大なインフラ需要が眠る西方の「シルクロード経済帯(中央アジア)」では低利融資の大攻勢で道路やトンネル、天然ガス・パイプラインが建設されるなど関係国は中国マネーに沸いている。
「シルクロード経済圏」と銘打ったところで、資金から作業、資材、建機などすべて中国のものなので、中国の公共事業を外国でやるようなものである。
 中国は「2014年の中国の対中央アジア投資は380億ドルにたっしているが、日本は20億米ドルに過ぎない」と豪語するが、2015年に中央アジア5か国を訪問した安倍首相が「3兆円超の事業創出」を打ち出しており、今後、中央アジアで日中の経済競争がはじまるだろう。

 ●中国が抱える三つの懸念
 トランプの助言者であるキッシンジャーは、中国が北朝鮮に傀儡政権をつくるのと引き換えに米軍が朝鮮半島から撤退するという裏取引をもちだしたというが、中国はのってこなかった。
 なぜなら、力づくで金体制を倒せば、世界と共存共栄をはかるというスローガンと矛盾して、一帯一路の関係・周辺国の不信感を招かずにいないからである。
 現在、中国がもっとも重視しているのが国際世論で、訪中したトランプが中国にたいして一言もクレームを発しなかったのは、習近平の立場を考慮したからである。
 中国がおそれるのは次の三つの事態である。
 @経済侵略(一帯一路)や軍事侵犯(南シナ海)、人権侵害(チベットや東ウイグルなど)、自由主義経済(知的所有権など)違反などにたいする対中批判
 A南北統一(朝鮮半島)
 B一帯一路戦略にたいする抵抗や妨害
 アメリカと中国の蜜月化からは、米中両国が互いの無法製や違法性、失錯をかばいあうという暗黙の了解がみてとれる。
 中国にとって、将来的な最大の懸念は朝鮮半島の統一である。
 中国の隣国に7500万人の核保有国が誕生することになれば、国家間の摩擦や国防上のリスクははかりしれない。
 中国がアメリカの北朝鮮攻撃に待ったをかけた理由がそこにあった。
 米韓の主導で統一がおこなわれた場合、朝鮮半島に親米政権が誕生することになって、中国の安全保障上の大きな問題となる。 
 金正恩体制以降、中国にとって、北朝鮮は同盟国でも友好国でさえなくなったが、金体制崩壊後、朝鮮半島にアメリカの傀儡政権がうまれては困るのである。
 北朝鮮主導で統一がおこなわれた場合、韓国は、核を持ち、世界第四位の兵力数を誇る北朝鮮軍に制圧されることになる。
 北の軍事大国化と核保有、ミサイル技術はそのためのもので、統一後、韓国側が大粛清と経済恐慌にさらされるのは目に見えている。
 それなら、南北統一を避けて、中国の庇護下にはいる事大主義のほうが懸命で、そのほうが韓国の国家防衛になるだろう。
 そこからでてきたのが韓国を中国の友好国に変えてしまおうという戦略である。
 具体的には、韓国の柵封化と朝鮮半島からの米軍撤退で、アメリカも、韓国が地理的、経済的に結びつきのつよい中 国に擦り寄っていくのは避けられないと見ている。

 ●統一朝鮮で火を噴く朝鮮自治区
 南北統一がなされたとき、とんでもない問題をもちあがってくる可能性がある。
 民族独立運動である。
 中国は、チベット、ウイグル、内モンゴルの3か所で分離・独立運動を抱えているが、中国東北部(旧満州)の延辺には、人口約200万人の朝鮮自治区が存在する。
 延辺は、中華人民共和国吉林省に位置する朝鮮族の自治州で、南北朝鮮が統一されると、この地の帰属をめぐる領土問題が浮上してくる可能性がある。
 これが「高句麗問題」で、中国は、高句麗が中国の一地方政権とするが、韓国は、高句麗史を韓国史に繰り入れている。
 高句麗は、紀元前1世紀頃から紀元668年まで中国東北部から朝鮮半島北部地域にまたがって存在した東アジアの古代王国で、高句麗史を中国史とみとめれば、朝鮮史は、一千年以上も短縮されることになる。
 高句麗論争は、領土(地)と民族(血)の問題なので、政治紛争になりやすい。
 韓国は、柔道、茶道、華道、相撲から寿司やしゃぶしゃぶ、ソメイヨシノなど日本特有のものから、キリストも孔子まで韓国で生まれたという「韓国起源説」をもちだして、世界から呆れられているが、その誇大妄想と火病が韓国人の国民性である。
 中国が朝鮮半島の南北統一を望まないのは、中国東北部の朝鮮自治区で韓国人が独立運動をはじめたら、中国にとって最大の弱点であるチベットやウイグルなどの民族問題に飛び火する可能性があるからである。
 トランプと習近平が北朝鮮危機や南北統一問題を回避したのは、米中協調体制にとって現状維持が最良の選択肢だったからである。

posted by 山本峯章 at 06:37| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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