2015年11月18日

 国家と国体 K 月刊ベルダ11月号(2015年10月発売)より転載

 ●地政学上の要衝に位置する日本
 地政学的な特性を抜きに、日本の防衛を考えることはできない。
 平和論者のなかには、非武装中立論(九条遵守)を唱える者がいるが、非武装中立のコスタリカや武装中立のスイスと日本では、地政学的な条件が異なる。
 日本は、4つの領海(太平洋・日本海・東シナ海、オホーツク海)を隔ててアメリカとロシア、中国、韓国、北朝鮮と隣接している。
 しかも、通商や軍事面において、5つの国と密接な利害関係をもつ。
 ロシア(ウラジオストック)や中国、朝鮮半島にとって、日本は、太平洋へでてゆく妨害者で、太平洋を独占したいアメリカにとっても、邪魔者である。
 侮りがたい大国で、原爆を投下された太平洋戦争以外、戦争に負けたことがない。
 伝統国家でもあって、革命国家であるこれら5つの国とは、文化や価値観が異なる。
 地政学的要衝に位置する日本は、元々、周辺国から敵視、あるいは疎まれる運命を背負っていたのである。
 江戸時代は鎖国でしのぎ、明治に入って帝国主義を立て、日清・日露、第一次大戦に勝ち、国際的地歩を固めたが、前大戦では、敗北した。
 そして、憲法九条によって、丸腰にさせられたが、日米安保条約と再軍備をもって、再び、独立国家の体裁を整えた。
 国際情勢に、大きな歴史的変化はあったものの、利害対立国群に包囲された日本の地政学的条件は、大戦前から変わっていない。
 憲法九条によって、平和がまもられてきたというのは、とんだ妄想で、日米安保と自衛隊が、旧日本軍に代わって、戦争のない状態(=平和)をつくりだしてきたのである。
 第二次大戦が終結してから70年がたち、戦勝国が世界を支配する戦後体制は、米ソ冷戦構造崩壊後、急速にほころびはじめ、イラク戦争以後、アメリカが世界の警察官≠ニしての役割をはたせなくなるに至って、ほぼ瓦解した。
 くわえて、中国の台頭によって、アメリカの一極支配は、いよいよ、怪しくなっている。

 ●アジアに迫り来る危機の構造
 現在、アジアの軍事バランスは、二つの局面で、微妙に変化しつつある。
 一つは、中・韓接近で、半島有事によって、韓国が、中国と北朝鮮連合にのみこまれる可能性がでてきた。
 もう一つは、米軍のアジアからの撤退で、韓国からの完全撤兵と沖縄海兵隊のグアム島移動によって、近い将来、アジアにおけるアメリカ軍の影が薄くなる。
 第七艦隊も、指令系統が横須賀や沖縄からワシントンに移って、海上自衛隊と米海軍の一体感が希薄になるだろう。
 西太平洋から日本海、南シナ海、インド洋、ペルシャ湾にいたる第七艦隊の守備海域が、アメリカの戦力地域から外れる一方、中国海軍が勢力範囲を拡大してくると、シーライン危機が現実のものとなってくる。
 日本とアジアの安全をまもっているのは、日本とアメリカ(在日米軍/在韓米軍・第七艦隊)、台湾、韓国、オーストラリア、これにたいする中国・北朝鮮、第三戦力のインド、アセアン諸国らの軍事バランスである。
 このバランスが決定的に崩れたとき、紛争の危機が現実のものとなってくるだろう。
 米海軍がフィリピンのスービック基地を放棄したあと、中国が南シナ海を領海化したのが好例で、軍事力の後退は、かならず、紛争の危機をまねく。
 戦後、朝鮮半島やベトナム、アフリカ、中東が戦火に包まれたのは、日本とドイツの敗戦によって、旧植民地という軍事的空白地帯≠ェ生じたからだった。
 憲法九条によって日本が非武装地帯≠ノなっていたら、ベトナム戦争以前に日本列島が、米ソ代理戦争の戦場になっていたかもしれない。
 そうならなかったのは、在日米軍や自衛隊という軍事力が存在していたからだった。
 日本の防衛予算(5兆円)は、世界8位で、兵員、戦車、航空機、攻撃ヘリ、空母、潜水艦の6要素から算出した総合戦力ランキング(クレディ・スイス)では、アメリカ、ロシア、中国に次ぐ4位で、インド、フランス、韓国、イタリア、英国、トルコをしのいでいる。
 交戦能力の高さに至っては、日本がアメリカに次ぐ2位で、ロシアや中国をこえるというのが、世界の有力軍事専門誌の分析である。
 憲法九条など、宇宙の彼方へふっとんでいるわけだが、それが、シーラインの安全をまもっている平和の真のすがたである。

 ●実戦シミュレーションによって保たれている平和
 これからの戦争は、IT技術と精密機器のたたかいで、鉄砲かついで戦場にむかう戦争は、とっくに終わっている。
 現代の戦争は、総力戦でも局地戦でも、シミュレーションで片が付く。
これはおそろしい話で、開戦前に戦争の決着がついて、負けたほうは、たたかわずに、敗戦国となってしまうのである。
 台湾海峡危機から朝鮮有事、尖閣列島、南シナ海やシーライン防衛にいたるまで、紛争が回避されているのは、攻撃と防衛の実戦シミュレーション≠ェ拮抗しているからである。
 米ソ冷戦が、キューバ危機をふくめて、ホット・ウオーにいたらなかったのは、想定される攻撃効果と攻撃をうけた場合の被害が拮抗して(相互確証破壊)いたためで、アメリカが冷戦に勝ったのは、シミュレーションゲームに勝ったのである。
 核攻撃を抑止する相互確証破壊≠フメカニズムもシミュレーションである。
 日本は、核をもっていないが、日米同盟という核の傘≠フ下にある。
 たとえ、核報復がおこなわれなくとも、核を使用した国は地球的村八分≠フ扱いをうけて、首都が被爆したと同様、国家滅亡へむかわねばならない。
 現代は、戦争も平和も、シミュレーションによって保たれている。    
 したがって、いかなる戦争も、通常兵器に限定される。
 通常兵器による戦争も、実行に移されることはない。
 前述したように、現代の戦争は、シミュレーションによって、たたかう前に勝敗が決してしまうからである。
 中国海軍が、海上自衛隊より実力が上なら、尖閣列島は、人民解放軍が宣言したとおり、直ちに、中国海軍によって占拠されていたはずである。
 そうならなかったのは、海自の防衛力が、中国海軍の攻撃力を上回っていたからである。
 それが安全保障で、平和は、軍事バランスによって、維持されるのである。
 自衛隊の行動範囲は、国内と領海内、シーラインの輸送船護衛に限定されるので、大量の兵力や戦車を必要としない。
 日本が準備すべきなのは、日米連合となる全面戦争ではなく、大量の兵力や戦車、空母、爆撃機を必要としない防衛戦で、防衛戦は、攻撃戦よりも優位に立てる。
 遠征戦となる攻撃軍の能力は、数分の一に縮減されるからである。
 外洋を航行してくる大型空母は、迎撃潜水艦の格好の標的で、イージス艦ですら、出撃すれば、大和や武蔵のように、魚雷攻撃にさらされる。
 日本海軍の伝統戦法は、日本海海戦以来、漸減邀撃(ざんげんようげき)である。
 敵艦隊の遠征途中で、潜水艦や航空機で痛めつけ、近海の決戦場で、巨砲を見舞うというもので、戦艦大和や武蔵はそのためのものだった。
 日本が、専守防衛の漸減邀撃に徹すれば、防衛は、自衛隊の現勢力で十分に可能で、あとは、戦闘力の先鋭化をはかるだけである。

 ●日本は単独で国家をまもらなければならない
 現在、日本の軍事力は、質の高さにおいて、アメリカと肩を並べる。
 日本の防衛能力は、数や量ではなく、技術の高さに依存している。
 その象徴が、第6世代戦闘機の国産試作機ATD-X(心神)である。
 使用されているXF5-1エンジン(IHI製作)は、推重比率が世界トップレベルで、同機のアフターバーナー燃焼時のスピードは世界一である。
 ステルス性も世界トップレベルで、エンジン排気ノズルを可動型にした独自な技術によって、ゼロ戦並みの旋回性能ももっている。
 レーダーなどの高度な電子化や全方位を射程におさめる火器管制装置、高性能自動追尾機関砲によるミサイル迎撃能力などを考慮に入れると、同機が完成した場合、世界一の戦闘機という折り紙がつくはずである。
 陸上自衛隊の「10(ヒトマル)式戦車」も、第4世代主力戦車として世界最強との呼び声が高い。
 海上自衛隊の装備も、世界最強レベルで、潜水艦20隻体制になれば、中国艦隊は、日本近海どころか、東シナ海にもでてこられない。
 中国潜水艦の天敵が、日本が90機保有する「P3C哨戒機」で、冷戦時代にソ連の潜水艦隊を封じ込めた対潜能力は、いまなお、健在である。
 P3C哨戒機は、高性能の搭載電子機器とターボファンエンジン4発搭載の国産「P1哨戒機」にきりかえられつつあるが、そうなれば、中国の潜水艦はほぼ完全に無力化されるだろう。
 陸上自衛隊の偵察ヘリコプターOH1(「ニンジャ」)は、世界最強の攻撃ヘリコプター「アパッチ」に匹敵する戦闘能力をもつほか、宙返りやロール機動などの驚異的アクロバット飛行が可能で、戦闘ヘリコプターとして世界最高の水準にある。
 空母は、ひゅうが型2隻といずも型2隻の4隻体制だが、戦闘機の発着艦が可能な空母2隻とヘリ空母2隻あれば、本土防衛は可能である。
 日本は、新型ミサイル(SM‐3ブロック2A)の発射試験にも成功している。
 射程や射高が旧型(ブロック1A)の二倍の能力をもつブロック2Aが配備されれば、ロフテッド(高高度)軌道で発射された中距離弾道ミサイルを弾道頂点で迎撃できるようになり、弾道ミサイル迎撃能力が飛躍的に向上する。
 日米が実用化に協力しているレールガン (電磁波砲) も実用に目処がついた。
 レールガンは、リニアによる大量の電流パルスで弾丸を音速の10倍のスピードで発射するもので、日本の「リニア新幹線」とアメリカの「スター・ウォーズ計画」の技術がむすびついた今世紀最大の火器といわれる。
 日米がレールガンの実用化に成功すれば、中国大陸沿岸のミサイル基地網を瞬時に壊滅することができる。
 これらの先端技術は、実戦に利用されなくても、シミュレーンだけで、戦争抑止力としてはたらく。
 次々とノーベル賞学者をうみだす科学立国日本は、マスコミ売国奴のたわ言をよそに、着々と科学的防衛システムをすすめてゆくのである。

 ●平和主義アナーキズムと憲法九条
 日本の安全を脅かすのは、ホット・ウオーではなく、むしろ、平和主義アナーキズムによる情宣戦である。
 平和主義アナーキズムは、無抵抗主義のガンジーやトルストイ(『戦争と平和』)、ソロー(『森の生活』)らの運動をつうじて欧米に広がったもので、個人主義、人道主義、反戦主義、反国家主義のイデオロギーである。
 資本主義にも懐疑的だったところから、ニューディール政策(資本の社会主義化)のルーズベルト大統領は、共産主義ではなく、平和主義アナーキズムの信奉者だったと思われる。
G HQがつくった憲法が、トルストイ的なのは、かれらがニューディーラーだったからで「武器を捨てると平和になる」は、『戦争と平和』からの借り物である。
 作家や大学教授、弁護士らをふくむ反日勢力が「武器を捨てると平和になる」と叫ぶのは、頭が幼稚園児並みだからではなく、トルストイやガンジーの信奉者だからで、原発反対は、日本の長期的エネルギー政策を見据えてのことではなく原始に戻れ≠フソーローやルソーの影響をうけているからである。
 国家や国防は悪で、「武器を捨てると平和になる」という平和主義アナーキズムは、売国思想にほかならない。
 日本が戦争に負けると世界に平和がやってくると夢想したゾルゲ事件の尾崎秀美のようなもので、尾崎が記者をつとめた朝日新聞は、いまなお、平和主義アナーキズムを唱えているのである。
posted by 山本峯章 at 11:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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