2017年02月11日

月刊ベルダ2月号(2017年1月発売)より転載

 三極時代における日本の外交戦略

●オフショア(沖合)・バランシングと日本の防衛
 トランプが大統領になる2017年以降、アメリカとロシア、中国の3強が世界版図を分け合う情勢になるだろう。
 世界大国アメリカの一極支配から、地域大国となる米・ロ・中の多極支配へパラダイムが変更されるのである。
 背景にあるのがアメリカの弱体化と、アメリカ一極支配というグローバリズムの破綻である。
 強国の論理や国益の追求を地球規模におしひろげてゆく覇権主義は、かつての帝国主義のように、過去のものになりつつある。
 トランプの一国主義は国益主義≠ノほかならず、今後、国益にもとづく国家的連携が新たな国際秩序となってゆくだろう。
 その象徴が、在日米軍の撤退や日本の核保有容認論、米ロ接近など、大統領選挙戦中のトランプ発言だった。
 トランプの政策はオフショア(沖合)・バランシング≠ノ根ざしている。
 軍事力を背景にしたグローバリズムは経済的に採算がとれず、同盟国の紛争に介入するのはリスクが大きすぎ、国益に反するというのである。
 現在、アメリカで検討されているオフショア・バランシング政策の内容は次のとおりである。

 1 欧州・中東の兵力を縮小あるいは撤退させ、東アジアの軍事力をハワイまで後退させる
 2 米軍兵力を陸軍から海・空軍の重視へ転換する
 3 駐留米軍の負担を同盟国に分担ではなく全額代替えさせる

 といっても、在日米軍の撤退ということにはならない。
 日本単独では中国の覇権主義に対抗できないからである。
 アメリカの交易の60%がアジアで、アジアの権益がアメリカの国益と直結している。
 中国の覇権主義はアメリカの国益と合致しないのである。
 アメリカ(軍産複合体)の狙いは、アメリカ製の武器を日本に買わせ、自衛隊に米軍の代理をつとめさせるところにあるだろう。
 その延長線上にあるのが、日・韓に核をもたせるという考え方で、中国の核にたいする抑止力を日・韓に負わせようというのである。

 ●「日・米・ロ」のトライアングル外交
 トランプとプーチンの接近は、対テロ戦争で手を組み、それぞれ、自国の経済建て直しに全力を尽くそうという思惑からである。
 米・ロによるイスラム過激派(イスラム国)制圧が現実すると、米・ロ関係の強化にはずみがつく。
 米・ロの接近によって、大きな影響をうけるのが中国だろう。
 ロシアとアメリカのプレゼンスが高まると中国の地位が相対的に低下するからである。
 バランス・オブ・パワーの力学では1+1は3にも4にもなる。
 これに日本がくわわって、日・米・ロの「トライアングル外交」が成立すると中国の覇権主義にブレーキがかかる。
 中国はこれまで、軍事力と経済力を武器に侵略的な対外政策をすすめてきた。
 チベットやウイグル、南シナ海では、軍事力にモノをいわせ、中央アジアやアフリカなどでは経済で影響力を高めるという両刀使いの戦略を展開してきたのである。
 日本にたいする敵対政策も覇権主義にもとづいている。
 覇権をもとめ、仮想敵をつくりだすことによって、国家の求心力をつくりだそうというわけで、中国政府はこれまで日本の戦争犯罪(南京虐殺・靖国問題)などを煽って、反日デモまで工作してきた。
 覇権主義の土台となっているのが中華思想で、中国外交には、伝統的に、君臨と服従以外の選択肢がない。
 経済・軍事の両面で拮抗し、実質的にアジア安保となっている日米安保条約を堅持している日本は、中国にとって、中華思想に馴染まない永遠の仮想敵なのである。
 日米・日ロに新しい外交関係が構築されても、日中関係の好転は望めない。
 特ア外交では、安易な接近や妥協が、逆に障害となる危険性を弁えておくべきだろう。

 ●シミュレーション・ウオーと安全保障
 中国が軍拡に走るのは、現代の戦争は、比較軍事力によって勝敗が決するシミュレーション・ウオー(仮想戦争)だからである。
 仮想戦争では軍拡競争に後れをとると事実上の敗戦となる。
 それが米ソ冷戦におけるアメリカの勝利で、米・中の軍拡競争も同じ構造である。
 冷戦で、軍事力と並んで大きな要素となるのが経済力と地政学的条件である。
 米ソ冷戦でアメリカが勝利した理由の一つになったのが日本列島の米軍基地で、旧ソ連は、太平洋方面の劣勢を最後まで覆すことができなかった。
 大国による軍事制圧は、イラク戦争がIS(イスラム国)という怪物をうんだだけだったように、テロの報復や敵対勢力の拡散、新たな紛争、難民流出をまねくだけで、支配の決定的な力にならず、今後、なることもない。
 大国による軍事衝突の可能性も消滅したといってよい。
 かつての大戦は、すべて、独裁政権と国民の無知のもとでおこなわれた。
 中国の軍事的脅威は、日本に武器を売りたいアメリカと媚中派によるプロパガンダにほかならず、全世界がネット情報を共有する環境の下で、大規模な国家戦争はおこりえないのである。

 ●米・ロ・中との地政学的対立
 日本は、かつて、三つの大戦をたたかった。
 日清戦争と日露戦争、大東亜戦争である。
 中国(中華民国)とロシアには勝ち、アメリカには負けた。
 現在、日本外交の重点が米・ロ・中の3国に絞られているのは、三つの大戦と無縁ではない。
 日本がアメリカとロシア、中国と深い因縁をもつ理由は三つあるだろう。

 1、海を隔てた隣国同士で、日本は、米・ロ・中の中間地点に位置している
 2、革命国家(米・ロ・中)と伝統国家の確執がある
 3、米・ロ・中と日本は文明圏が異なり、価値観に大きな相違がある

 日本が米・ロ・中と戦争したのは、利害が対立あるいは競合したからである。
 地政学的には太平洋をめぐる確執で、かつて、西太平洋を勢力圏とした日本がいまなお、米・ロ・中の利害対立者として立ちはだかっているのである。
 日本が米・ロ・中と確乎たる外交関係をむすばなければならないのは、地政学上、敵対関係に陥りやすいからである。
 外交は、摩擦や衝突を防ぐための交渉で、交流や友好、通商は二の次の問題である。
 戦争を防ぐための原則は、交戦力・情報収集力の保持と相互不干渉の三つである。
 交戦力や十分な情報力をもち、なおかつ一定の距離を保つところに外交という高等技術が展開される。
 日本は憲法で交戦力を否定し、情報機関をもたず、親米や親中という無節操な外交に終始して、米・ロ・中、韓との自主外交を台無しにしてきた。
 日本の平和主義は、摩擦や紛争の種をまきちらす火遊びだったのである。

 ●軍事から経済に移った危機の構造 
 軍事力と地政学的力学にもとづく仮想戦争の次にくるのが経済戦争である。
 現在、国家あるいは国家間において、軍事的な緊張をこえる混乱や摩擦のタネになっているのが経済である。
 といっても、自由貿易や資本の自由化の下にある実体経済は、経済制裁などのケースを除いて、大きな問題にはならない。
 問題は、国際金融資本と新自由主義である。
 実体経済を破壊する金融経済と富が少数の資本家に独占される新自由主義によって、資本主義体制が根底からゆらぎはじめている。
 バブルとその崩壊、巨額の不良債権処理と経済規模の縮小、中間層の貧困化と失業などの尻拭い(「国家と市場の戦い」)をさせられる国家が負担に耐えられず、危機に瀕しているのである。
 トランプの登場の背後にあったのは、1911年のウオール街の叛乱≠ノ端を発した新自由主義への反抗で、他の先進国も同様の事情をかかえている。
 国家のみならずEU全体をゆるがしたサブプライムローン問題やギリシャを筆頭とする欧州財政危機の深傷はまだ癒えていない。
 トランプの一国主義宣言やイギリスのEU離脱の背景にあったのは、経済の建て直しで、国際金融資本と新自由主義の暴風が吹き荒れた後、新たな経済体制をつくりあげなければ国家も国際関係も立ち行きならなくなっている。
 軍事力で仕切られてきた世界構造が、産業や経済、技術、雇用という非軍事部門に左右されはじめたのである。

 ●日本外交と戦後レジーム
 米占領下からスタートした戦後日本は、主権国家としての諸条件を欠いたまま諸外国との外交関係をひらいた。
 憲法で国家主権(交戦権)を否定したばかりか、スパイ防止法も国家反逆罪ももたず、大使館には情報官も駐在していない国が主権の行使である自主外交をおこなえるはずはない。
 日本が自主外交を放棄して、対米従属の外交に終始してきたのは、潜在主権を戦勝国アメリカに置いた戦後体制をひきずっているからである。
 そして、武器を捨てると平和になるという平和観念論(憲法前文)に立てこもってきた。
 外交は「戦闘をともなわない戦争」といわれるように、主権と国益をかけた壮絶な駆け引きで、きわめつけの現実主義である。
 はたして日本は、アメリカやロシアと対等に外交をおこなえる条件を十分に整えているだろうか。
 否である。
 戦後、日本が、外交・防衛について、アメリカに追従してきたのは、自主的な世界戦略を放棄してきたからである。
 YP体制は、戦勝国が強制したというよりも、日本がみずから選択した敗北主義で、戦後レジームを 否定するなら憲法以下、法制や政令、制度を独立国家のものにきりかえなければならない。
 アメリカ一極体制の崩壊によって、外交・防衛をアメリカに頼ってきた日本のこれまでの外交・防衛の構造が根本から崩れ落ちた。
 戦後70年にして、日本は、アメリカから離れて、みずからの力で国際社会へのりだしていかねばならなっくなったのである。
 日本の自主外交は、軍備や同盟間を万全にしてアジアのバランス・オブ・パワーを保ちつつ、経済面でイニシアチヴを握るところに見出される。
 戦後、日本が短時日で一流国の仲間入りをはたすことができたのは、日米同盟にくわえて、復興と経済成長をなしとげ、経済的に成功したからである。
 この戦略はいまでも有効で、とりわけ、世界の安定が、軍事力ではなく、経済にシフトされた現在、技術・経済日本のはたすべき役割は小さくない。

 ●よみがえる大東亜共栄思想
 中心になるのが経済・産業技術の分野で、日本の外交は、米・ロの二元外交を軸にして、インドや東南アジア諸国にたいして積極的にすすめられるべきである。
 これは、大東亜共栄圏の再現で、共存共栄のスローガンが再び謳われる。
 かつて英米は、大東亜共栄圏が西洋への敵対思想だとして、経済封鎖や軍事挑発をおこなって、日本を第二次大戦へひきずりこんだ。
 現在、同じことをやっても、西洋には、妨害する理由も力もない。
 大東亜共栄思想は、アジアにおける経済の共同防衛で、地域大国である日本を核としたアジア安全保障でもある。
 中・韓が日本外交の重点から除外されるのは、特アには、大東亜共栄思想が通用しないからで、中・韓相手では、かつてのルーズベルトのように、交渉をかさねるほど溝が深くなる。
 日本が対米交渉を中止して「ハルノート」を無視していたら、大東亜戦争はあっても、日米開戦はありえなかった。
 平和的交渉が不可能な国には、沈黙して、防衛を万全にしていることが最善の外交なのである。

 ●無限の可能性をひめる日本の技術
 かつて日本にゼロ戦や戦艦大和があったように、現在の日本には先端技術と工業技術がある。
 スーパーコンピューターをはるかにしのぐ量子コンピューターもノーベル賞レベルで世界をリードし、国産ステルス戦闘機「心神」は米軍「F―35」を凌駕する能力をもっている。
 中国は基礎研究と軍事技術での敗北をみとめた。
 これが、非軍事部門における日本の安全保障である。
 日本は、アメリカに頼らずとも、技術面で独自の平和外交を展開できる。
 ロシアには技術提供と民間資本導入にもとづくシベリア開発が有望で、とりわけ要求されているのがIT分野の技術である。
 工業技術や基礎研究がない中国や韓国には手がだせない分野で、シェア世界一のサムソンのスマートフォンの部品は大半が日本製である。
 日本の新幹線を導入するインドや製造業のインフラ設備が整っていない東南アジアへの技術導入には、経済成長にともなって、巨大な市場が誕生するメリットもある。
 米国ではローテク製造業が不振で、それが高い失業率につながっている。
 第二次世界大戦後につくられた道路や橋梁などの老朽化が社会問題化しており、トランプは、大型インフラ投資の方針を掲げている。
 トランプが選挙期間中にコマツを名指しで批判したことにたいして、同社の大橋徹二社長は「米国のコマツ工場は全体で約6000人を雇用している」と切り返している。
 空洞化しているアメリカの製造業に日本のメーカーがのりこんで技術移出と雇用をひきうければ、アメリカ経済は復活し、日本にとっても、中国以上の大市場となる。
 資源開発も同様で、日本は、技術力で、潜在的資源国家になりうる。
 原油の資源量は、経済的に採算がとれる埋蔵量や確認埋蔵量(重質油・超重質油)の数倍といわれる。
 原油の重質留分分解技術は、日本が世界一で、原油の残渣物を10%下げることによって、その分、新たに原油を掘り当てたにひとしい。
 日本は軍事面でアメリカに依存しているが、技術ではアメリカと肩を並べるかそれ以上である。
 政治家である以上に経済人であるトランプの登場によって、日本は、技術によって、米・ロ・亜と共存共栄の路線を堂々と選択できるのである。
posted by 山本峯章 at 00:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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